「ねえ」
「ん?」
 新聞に目を通す文太さんは、上の空のように返事をした。何となく、私は彼の肩にもたれかかる。
「急に肩が重くなっちまったな」
 文太さんの体を通して、その声が伝わってくる。わざとらしい口ぶりとは裏腹に、彼は相変わらず新聞から目を離そうとはしない。
「おもしろい? 新聞」
「まあな」
 それきり、また会話が途切れる。私の方を見ようとも構おうともしない。……そんなところが好きでもあるけれど。
 もたれていた体を起こして、今度はテーブルに頬杖をつく。文太さんが新聞を読んでいる姿をぼーっと眺めて、その無言の間をタバコの煙が揺らいでいく。
 今度は、そのタバコをとってみようか。それとも、新聞を横取りしてみせようか……そんなことをぼんやりと考えていると、文太さんが新聞を畳みだす。テーブルの上に置いて、それから灰皿にタバコの灰を落とした。
「で、どうしたんだ? 俺に何か用があるんだろ?」
 そう言って送られる視線が、どうもむずがゆい。彼に構ってもらいたいと思いながらも、彼の視線と興味を独り占めする新聞にさえやきもちを焼きながらも、いざ自分を見つめられてしまうと居ても立っても居られなくなる。
 こんな瞬間は今までにも何度も経験してきていて、初めてのことではない。それなのに、そんな経験を繰り返すたびに、文太さんと過ごす時間が増えていくたびに、私は“いつもどおり”を忘れていく。「こんなに格好よかったっけ?」なんて、惚けてばかりいる気がする。
「せっかくの休みだし、どこかに行きたいと思って」
 “どこかに行きたい”と言いつつ、彼の運転によるドライブを望んでいる。彼が一緒に出掛けてくれるなら、行き先はどこだっていい。
「なら、用意するか」
 それだけ言って、文太さんが重い腰を上げる。すでに出掛ける準備を終えている私は、行き先をどこにしようかと思いめぐらせていた。


END