肩を並べて街を歩くふたりの頭上には、少し小さな傘――デートの約束をしていたせっかくの休日なのに、生憎雨が降り始めてしまったのだ。幸いにも
夢子が折り畳み傘を持っていたので、ずぶ濡れにはならずに済んだが、折り畳み傘では大人ふたりがその中に収まってしまうのは難しい。
街は、雨に濡れて色を濃いものとしている。
傘に落ちてくる雨粒の音と、地面に打ち付ける雨の音。時折、濡れたアスファルトを通っていく車が跳ね返す水しぶき。
雨のおかげで人気が少ないこの通りの中、傘の下でふたりだけの世界が広がっていく。ぽつぽつと話す互いの声は聞こえて、その他の周りの全てに雨がモザイクをかけている……
最悪だと思っていた雨がもたらしたロマンティックな瞬間を、
夢子は楽しんでいた。ほの暗くてしっとりとした世界も、それはそれで悪くないものだと。
そうして恋人の横顔を見たとき、ふと、彼の肩が濡れていることに
夢子は気付いた。
「フィル、肩が濡れてる」
彼が傘を持っていたのだが、彼女が濡れてしまわないようにと
夢子の方に傾けていたのだ。
華奢ながらも傘からはみ出したフィルの肩、それから腕は、雨粒のために斑模様を作っている。
夢子の肩も全く濡れていない訳ではなかったが、それでも彼の右肩と比べれば服が多少湿っている程度だった。
風邪をひくかもしれないと思った
夢子は「もっとそっちに傘を向けていいよ」と言うが、フィルは「ありがとう」微笑むだけ。
「でも、
夢子が濡れてないなら僕はいいよ」
……ああ、フィルってどうしてそんなに優しいんだろう。
何気ない言葉に含まれた思いやりに胸をぎゅっと掴まれた
夢子は、思うままにフィルの腕に自分の腕を絡ませた。必然的に、ふたりの距離は近くなる。
「
夢子 !? 」
驚いたフィルは思わず足を止めようとするが、
夢子がそれを阻止した。組んだ腕を引っ張るようにして、歩みを止めない。
「こうしたら、濡れないでしょ」
照れたまま、うつむきがちに
夢子は呟く。その様子と言葉にやられて体が熱いフィルは、このままでは持たないと思った。外出先でこんな風に接近するのは始めてのことで、それも彼女からというのは正直嬉しかったが、このままではどうにもできない。
「どうしようか、とりあえずどこかお店に入る?」
「……家、帰ろう」
「もう? どこか行きたいところとか――」
「フィルとふたりっきりになりたい」
あまりにも様子が変わった
夢子を見て、フィルは「
夢子、どうかしたの……?」と尋ねる。しかし、
夢子はなぜか怒ったように「どうもしてない!」と返すだけ。ますます恋人のことが分からなくなったフィルは、変な汗をかいてしまう。
「フィルのせいなんだから」
「えっ、僕のせい !? 」
「早く帰ろう」
そう言って、より強く組まれる腕。フィルは、腕に当たる柔らかな感触にまんざらでもなく感じつつ、理由は分からずとも
夢子が何を求めているのか分かったような気がした。
恋人たちのその熱さには、きっと雨もすぐに止んでしまうことだろう。体を寄せあう恋人の鮮やかな色の傘が、雨の街を彩っていく……
END