白のタンクトップをパタパタとさせながら、譲二はソファに座った。
「暑くないか?」
 そう言う譲二の額には汗が光って見えて、私はちょっと信じられない気分になる。
 ここは真夏の日差しが眩しい屋外じゃなくて、屋内。それも、冷房の効いたリビング。クーラーの設定温度は24度で、外と比べれば十分に冷えている。
 人によっては高かったり低かったりする温度かもしれないけれど、一応、今年の夏の初めに譲二との話し合いの結果決まった温度だった。もちろん、私は寒がりな方の人間なワケで、これ以下の温度にするのは絶対に無理。
「寒いってば」
 隙あらば暑いアピールをしてくる譲二をあしらうのも、今年の夏では日常のこと。けれど、譲二はソファにもたれた体をずりずりと寄せてきて、私の真横へと収まってしまう。「ま、これから汗かくしいいか」なんて調子のいいことを言いながら、私の体を抱き寄せた。
「嫌だからね、今日はしない」
「んな、つれないこと言うなよ」
 まるで大型犬がじゃれるように顔を近づけて、遠慮なく頬や首元に口づけられる。温かい手のひらが私の手を包んで、譲二の汗の匂いがほんのりとする。……まずい、流されてしまいそう。
「暑いんでしょ? ますます暑くなるようなことしていいの?」
「それとこれとは別なんだよ」
「……都合がいいんだから」
 この言葉で許可が下りたと判断したのか、譲二は私の体を膝の上へと乗せる。そのまま抱きしめて、肩に顎を乗せたままささやいた。
夢子は心配してくれてやさしいなぁ。そういうところも好きだけどさ」
 もう、何を言ったっていいようにとられてしまう。けれど、本当はいつもそう。わがままな譲二を私がたしなめているようで、実際は私が譲二にいいようにされているだけ。
 こんなこと絶対に譲二には言ってあげないけど……今だって、譲二に抱きしめられると温かくて気持ちがいい。布越しに触れる肌が、落ち着く温もりをくれる。
「ああ、こんなに冷たくなっちゃって」
 我慢できない指先が服の下へと入り込んできた。すっかり冷え切った身体では、まるで火傷しそうなほど熱く感じる。
「誰のせいだと思ってるの」
「俺のせいだよ。……だから、今温めてやるからな」
 柄でもない言葉に、私はつい吹き出してしまう。
「何、そのセリフ!」
 肩を震わせていると、腰に回された腕に力が入る。ちょっと怒ったらしい、まだまだかわいいものだけれど。それから顎を掴まれて、強引にキスをされる。
 まるで、凍ってしまった身体を溶かされていくみたい。寒さなんて、譲二が触れてくれた時から気にならなくなっていたのに、今は触れてもらう言い訳にしてしまいそう。
「もう少し下げようか?」
「……いや、このままでいいよ」
 その理由は訊かなくても分かる気がする。……けれど、今度からはもう少し設定温度を下げようかな。


END